投資家を熱狂させる中国の「新消費」領域

一年で総額7,700億円集めた中国のコンシューマーブランド領域とその急成長について

Hideo.N

2021/6/12


  皆さんこんにちは。East Venturesの夏目です(@HideoNw)です。

  最近、Twitterでもよく中国のコンシューマーブランドの資金調達ニュースについてツイートすることが多く、周りからも時折中国におけるコンシューマーブランドの発展や、流行、プロダクトの詳細について聞かれることもあるので、この機にいくつかの産業レポートを交えて、記事としてまとめたいと思います。

  文中にいくつか代表的なコンシューマーブランドについても取り上げていきますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。

  これまで「Made in China」と聞くと、どこか商品に欠陥があったり、質が乏しく、デザインも優れていない商品、というイメージを抱いている方も多いのではないだろうか。事実、ほんの5年前までは上記のような商品が多く市場に出回り、ネット上ではネタとして取り上げられることも多かった(もちろん今でもそういった商品は少なからず存在する)。

  しかしここ数年、中国市場では劇的な変化が起きており、「Made in China」ブランドの質は確実に改善されつつある。特に若者をターゲットとした新興コンシューマーブランドが次々と立ち上がり、これらのブランドが提供するプロダクトは国内のみならず、世界進出も視野に入れられるほどのクオリティになる。その背景にあるのは、消費中核層の世代交代とコンシューマーブランドのグローバル傾向→ローカライズ傾向、そして中国市場における内需の回復だろう。

  まずは中国のコンシューマーブランドのトレンドについて振り返ってみよう。中国コンシューマーブランドのトレンドが訪れたのは2018年前後。まだ「Made in China」ブランドよりも全国的に海外ブランドの人気が高かった時期に、ソーシャルECアプリである「RED」(小紅書)にていくつかの国産ブランドの人気に火がついた。その代表格が2016年設立、2020年に米NYSEにて上場を果たした「Perfect Diary」(完美日記)になる。

「RED」上に投稿されたPerfect Diaryに関するコンテンツ

  当時は「RED」を中心とした"種草"(コミュニティを通じて購買意欲の種を植え付け、最終的には購買行動に結びつけるマーケティング手法)が主なマーケティングチャネルとなり、設立間もない「Perfect Diary」も「RED」にてマーケティングを始めた。「Perfect Diary」が主に進めていたのはKOL(Key Opinion Leader)+KOC(Key Opinion Consumer)のマーケであり、フォロワー数の多いKOLの宣伝を通じて、ユーザーの興味関心を惹き(=種草)、さらには比較的コミュニティも年齢層も近いKOCを通じて購買活動に直接結びつけていった。

  このマーケティング手法は功を奏し、瞬く間に「Perfect Diary」の人気がうなぎのぼり。2018年のTmall W11ショッピングデーでは、わずか設立2年の国産コスメブランドとして、1億人民元(約17億円)の売り上げを突破。翌年のW11では、28分間で前年の売上額を更新し、コスメブランドの売上ランキングではトップに立つ。そして2020年のW11では6億人民元(約102億円)という驚異的な記録を叩き出し、NYSE上場へと拍車をつけた。

  「Perfect Diary」以外にも、同時期にアイスブランドである「鐘薛高」(2018年設立)や、コスメブランド「花西子」(2017年設立)なども「RED」にて同じマーケティング手法を通じて若者の人気を集めた。これらの「Made in China」ブランドは「新国貨」と呼ばれ、近年国産ブランド志向が強い若者の間では絶大な人気を誇る。しかし、これらのブランドはあくまで「新国貨」トレンドの前哨戦に過ぎず、本当の意味でトレンドが爆発したのは2020年となる。

  2020年、投資家からの注目を大きく浴びた中国のコンシューマーブランドはわずか一年足らずで286件もの資金調達案件(IT桔子調べ)があり、その中で食品とコスメブランドが全体の65%ほどを占めた。もちろん、食品、コスメ以外にも、新興のファッションブランドや、家電製品、"潮玩"と呼ばれるデザイナーズトイのブランドも数多く資金調達を実施している。中国のスタートアップデータベース、IT桔子によると、昨年一年で、コンシューマーブランド領域は450億人民元もの資金調達額があり、2020年は「中国コンシューマーブランド元年」とも称されている。
2020年の1年間で、200を超えるコンシューマーブランドが資金調達を実施。食品とコスメが最も投資家の注目を浴びた領域になるが、最も資金調達額が大きかった領域はファッションとなる。それ以外にも1億人民元超えの資金調達を実施したコンシューマーブランドは30社を超え、この領域の熱狂ぶりがわかる。

  ではなぜ2020年を契機に、中国のコンシューマーブランドは爆発的な成長を遂げ、さらには投資家の熱烈な注目を浴びたのか。その答えが前述の消費中核層の世代交代と、コンシューマーブランドのグローバル化→ローカライズ化、そして中国市場における内需の回復だろう。

  まず消費中核層の世代交代について。現在、中国の消費市場を牽引する若者ーーすなわち95年以降生まれの世代(中国では“95後”と呼ぶ)は2.5億人に達し、これらの世代が主力となる。日本やアメリカでもZ世代とも呼ばれるこれらの若者は、他の世代とは異なり、自身が購入する商品に対してコンテンツやデザインはもちろんのこと、ストーリー性や、どのようにマーケティングされているかも追求する。これは中国のみならず、日本の若者でも同じ傾向を観察することができるが、年間300社近いコンシューマーブランドが資金調達する中国では、よりブランドの世界観、そしてストーリー性を突出する必要性がある。

  単純に消費力、という側面ではすでにある程度経済力を持つ「80後」(80年代生まれの世代)が主力になるが、「95後」の特徴として自身がブランドの世界観、もしくはストーリー性に共感する場合、消費を惜しまないことであり、従来のコンシューマーブランドも新たな消費中核層を取り込むべく、ブランドのリブランディングも積極的に行っている。(例:スポーツメーカーの「李寧」や、コスメブランドの「百雀羚」など)
新興のコンシューマーブランドや、比較的成熟したコンシューマーブランドもこの「新消費」のトレンドに沿って、リブランディングや新商品の開発を行なっている。

参考記事:

  次にコンシューマーブランドのグローバル傾向→ローカライズ傾向について。従来、国内ブランドよりも、海外ブランドに対する信頼度が高かった中国では、スキンケア用品や食品など、直接身体に取り込むような商品については、国外の商品を好む傾向にあった。もちろん、その中でも特に「Made in Japan」は根強い人気を誇り、今でも高いクォリティの商品となると「Made in Japan」のイメージが先行する(その例として日系商品、すなわち中国のメーカーだが、日本由来もしくは日本の技術を用いて生産している商品は中国で人気を博す)。しかし近年、ナショナルブランド=「新国貨」のクォリティが著しく向上し、価格的にも海外ブランドの類似商品よりも安く抑えられることから、グローバルブランドよりも、徹底的にローカライズしたナショナルブランドを好む若者が増えている。また、ここでは政治情勢も少なからず影響しており、これまで海外ブランドを使用していた若者は、複雑に変動する対中情勢によって、海外ブランドからナショナルブランドに切り替える人もいる。
中国発の「日系ブランド」代表格とも言える元気森林。広告も日本を彷彿とさせるコンテンツや、日本語を掲載している。
  最後に中国市場における内需の回復について。中国は世界でいち早くコロナを収束させた国として、その内需はすでに新型コロナ以前の水準に回復している。コロナ期間中も、ライブコマースなどの方法を通じて、消費を促してきた中国だが、すでにポスト・コロナに突入した国として、その消費水準も新型コロナ以前を上回っているという見方もある。さらに、コロナを抑制した昨年5月に、中国政府は「双循環」政策を提起し、一言に"国内大循環を主体として、国内外の双循環が互いに促進する経済の新発展モデル"、すなわち中国という巨大市場において、内需の優位性を発揮し、国民の消費を拡大する上で積極的に輸出の促進を狙っていくこと。その中で、まずは内需をベースとした発展を進めていく中で、ナショナルブランドの設立を強化し、これらのブランドの海外進出を政府の側面からもサポートをする意向が見られる。

  コンシューマーブランドへの投資熱は一時のトレンドにしか過ぎず、注目している投資家の多くは中小の機関投資家だという見方もあるが、現に中国を代表するベンチャーキャピタルであるSequoia Chinaや、最も積極的に投資を行うCVCであり、莫大なリターンを産み出すTencent Investmentもこの領域で積極的に投資を行っている。そして事実、2016年設立した「Perfect Diary」はわずか四年でNYSEへと上場、発行価格10.5USD、IPO当日の終値は18.4USDに達し、時価総額は122.45億ドルを記録。JAFCO Asiaも出資をしている中国の新興ファストファッションブランドであるSHEINもすでにデカコーンとして、時価総額は150億ドルを超えており、一時のトレンドではないことをその市場価値をもって証明している(SHEINについての詳細はZVC李さんの記事をぜひご参照ください)。
  では記事の最後に中国の代表的なコンシューマーブランドと、新興のコンシューマーブランドをいくつか取り上げていきたいと思う。あくまで筆者の独断で取り上げたものになるので、中国のコンシューマーブランド領域を全面的に網羅しているとは言い難いが、主に大手VCから資金調達を実施し、順調に推移しているブランドを取り上げていく。

コンシューマーブランドリスト


シード〜シリーズA

钟薛高 Chicecream
https://www.zhongxuegao.com/home/index
設立:2018年3月14日
ファイナンス:シリーズAラウンド、2億人民元(2021年5月18日)
主な株主:ZhenFund、Genesis Capital、H Capital、Tiantu Capital
一言メモ:若者の間で絶大な人気を誇るアイスブランド。中国風の瓦を彷彿とさせるデザインが人気を呼び、毎年のW11ショッピングデーでは超人気商品となる。

佐大狮
https://www.zuodashi.com
設立:2018年11月12日
ファイナンス:シリーズAラウンド、1億人民元(2019年5月21日)
主な株主:HG Capital、Gaorong Capital、WE Capital
一言メモ:普段の食事のお供となる調味料や漬物を提供しているスタートアップ。特に出前が普段の食事の中心となる中国の若者をターゲットとし、バラエティ豊富な調味料・お漬物を少量で提供している。

Urbanic
https://www.urbanic.com
設立:2019年2月20日
ファイナンス:シリーズA+ラウンド、数千万米ドル(2020年3月30日)
主な株主:Sequoia China、Nexus Venture Partners、Unity Ventures
一言メモ:ポストSHEINとなる越境ECを中心としたファストファッションブランド。SHEIN同様主戦場は中国ではなく、欧米市場になる模様。

参半NYSCPS
http://www.nyscps.c
設立:2015年11月13日
ファイナンス:シリーズA++ラウンド、調達額未公開(2021年3月10日)
主な株主:Bytedance、Sinovation Ventures、Plum Ventures、Crystal Stream
一言メモ:オーラルケアグッズを提供するスタートアップ。オーラルケアグッズが中心となるが、最近ではシャンプーや、ボディソープなどといったプロダクトも開発。クレヨンしんちゃんとのコラボ商品もリリースしている。

可糖CoFANCY
https://cofancy.cc
設立:2019年11月7日
ファイナンス:戦略投資、調達額未公開(2021年1月1日)
主な株主:Sequoia China、ZhenFund、Country Garden Venture Capital、China Growth Capital
一言メモ:2019年設立、翌年3月にプロダクトをリリースしてすぐにTmallにて人気が爆発。わずか一月で二万件以上のカラーコンタクトを販売した新進気鋭のカラコンブランド。

シリーズB

隅田川咖啡
http://tasogare.cn
設立:2014年11月5日
ファイナンス:シリーズBラウンド、3億人民元前後(2021年3月31日)
主な株主:Qiming Venture Partners、Buer Capital
一言メモ:隅田川と書いて、たそがれと読むコーヒーブランド。中国では近年コーヒーの消費量が爆発的に増えており、コーヒーブランドも次々と立ち上がっている。隅田川のファウンダーは元々日本で留学をしていた中国人で、帰国後日式のコーヒーブランドである隅田川を立ち上げたそう。

鲨鱼菲特
http://www.sharkfit.net
設立:2016年3月10日
ファイナンス:シリーズBラウンド、数億人民元(2021年5月6日)
主な株主:Bytedance、Plum Ventures、Crystal Stream
一言メモ:低糖質スナックを提供するスタートアップ。近年、健康志向の若者が中国で増える中、日本と同じく低糖質スナックの需要が増えており、Sharkfitはまさにそういった鶏胸肉やこんにゃくクッキーといったスナックを提供している。

COLORKEY
設立:2018年1月2日
ファイナンス:シリーズBラウンド、4億人民元(2020年3月30日)
主な株主:Sequoia China、Sinovation Ventures、Goldman Sachs、JD.com
一言メモ:設立からたった一年で2億人民元もの売り上げを叩き出したコスメブランド。ファウンダーはこれまでスキンケア業界で20年従事したベテランであり、創業にあたって日本や韓国のサプライヤーと提携し商品を開発。

理然
https://liranhzp.world.tmall.com
設立:2019年4月28日
ファイナンス:シリーズB+ラウンド、3億人民元(2021年4月26日)
主な株主:Bilibili、Tiger Global Management、SIG、Hupu、Redpoint
一言メモ:近年、中国の男性の間で美容に対する意識が高まり、男性に特化したスキンケアブランドが次々と立ち上がっている。その代表格となるのが理然。すでにTiger Global ManagementやRedpointなどといった海外投資家からも資金調達しており、今後の成長に期待ができる。

元気森林
https://www.yuanqisenlin.com
設立:2016年4月8日
ファイナンス:戦略投資、5億米ドル(2021年3月30日)
主な株主:Temasek、L Catterton、Sequoia China、BA Capital
一言メモ:これまで砂糖が入っていたお茶が主流だった中国では、近年健康志向の若者が増えるにつれ、無糖のお茶や炭酸飲料に対する需要が増える中、誕生した無糖飲料を提供するスタートアップ。同時に日系コンシューマーブランドの代表格でもある。

シリーズC以降

小仙炖
http://www.xxdun.com
設立:2012年7月19日
ファイナンス:シリーズCラウンド、調達額未公開(2021年3月31日)
主な株主:IDG、CMC Capital、GF Securities、Amber Capital
一言メモ:即席の燕の巣を提供するスタートアップ。これまで、燕の巣は複雑な調理工程は必要とされていたが、小仙炖は直接瓶詰めの燕の巣を提供。燕の巣は美容効果がとても高いことから、人気に火がつき、毎年のW11では人気の商品となる。

王饱饱
設立:2016年9月14日
ファイナンス:シリーズCラウンド、数億人民元(2020年12月2日)
主な株主:Sourcecode Capital、Matrix Partners China、Hillhouse Capital、Vertex Ventures
一言メモ:中国版フルグラを提供するスタートアップ。昨年のW11では、シリアル類で売り上げNo.1に輝いている。

江小白
設立:2015年3月23日
ファイナンス:シリーズCラウンド、調達額未公開(2020年9月24日)
主な株主:Sequoia China、IDG、Hillhouse Capital、Tiantu Capital、Baillie Gifford、BA Capital
一言メモ:若者に特化した白酒ブランド。これまで白酒といえば、比較的年齢層の高い人々が飲むお酒だったが、江小白は白酒をリブランディングし、若者にも受け入れられるデザインとプロダクトを提供。江小白以外にも、最近ではアルコール系のスタートアップは中国投資家の間で人気に火がついており、上記の投資家以外にも、BytedanceやTencentも積極的にこの領域において投資を実施している。

喜茶HEYTEA
設立:2016年1月11日
ファイナンス:戦略投資、調達額未公開(2020年3月23日)
主な株主:Coatue、Hillhouse Capital、Tencent Investment、Sequoia China、IDG
一言メモ:チーズミルクティーを提供するスタートアップ。並ばない日はない、とも言える超人気チーズミルクティーブランドは若者を中心に市場を席巻。昨年、日本進出も噂されたが、コロナで延期になった模様。ファウンダーは1991年生まれのUnder30起業家。

完美日记 PerfectDiary
https://jp.perfectdiary.com
設立:2015年7月29日
ファイナンス:IPO(2020年11月19日)
主な株主:ZhenFund、CMC Capital、Hillhouse Capital、Tiger Global Management、Sequoia China、Carlyle
一言メモ:中国を代表する超人気コスメブランド。2016年設立した「Perfect Diary」はわずか四年でNYSEへと上場。時価総額は122.45億ドルに達した。

East Ventures
夏目 英男

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